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名古屋地方裁判所 昭和40年(行ウ)18号 判決 1965年4月30日

名古屋市中区白川町一丁目七十四番地

(旧町名中区八百屋町二丁目六番地)みかどビル一階

原告

株式会社 新興社

右代表者清算人

恵美竜雄

名古屋市中区南外堀町六丁目一番地

被告

名古屋国税局長

奥村輝之

右指定代理人

松崎康夫

天野俊助

山本義雄

中子良吉

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実と理由

原告は、被告は原告に対する昭和三十五年十月一日から昭和三十六年三月三十一日までの事業年度分の法人税の昭和三十八年十月二十九日付再更正処分および昭和三十八年六月二十八日付審査請求に対しての被告の昭和四十年一月十二日付けの裁決を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。との判決を求め、請求の原因として、一、原告は昭和三十五年十一月二十五日取締役会を開いてみかど交通株式会社に対し名古屋市昭和区藤成通四丁目二番の一宅地三十三坪、同丁目四番宅地百三十坪を同会社のタクシー「桜山営業所として譲渡することを決議した。二、右各土地に対しては株式会社東海銀行栄町支店の根抵当権が設定せられていたが、原告はこの根抵当権設定のままみかど交通株式会社にこれらを譲渡することとなし、同会社も原告の右銀行に対する抵当債務を引受けることを承諾したので右の売買代金を金五十五万円(登記価格)として原告はこれらを受領した。三、しかるに被告は昭和四十年一月十二日右の商行為を低廉譲渡と認め、課税所得金額を金六百七十二万六千百円とし、その法人税額を金二百四十九万二千二百円、過少申告加算税を金十二万五千二百五十円とする裁決をした。裁決の理由とするところは「土地の評価においては抵当権および国税滞納処分による差押等担保債権額に関係なく評価を行なうのが通常であるから、当該譲渡について精通者の意見等を参考として当該土地の譲渡価額を評価したところ低廉譲渡と認められる。」というにあるが、法人税法及び所得税法ならびに法人税基本通達を披見してみても被告の裁決の理由を支持する根拠は見当らない。四、むしろ学説などによれば、例えば加藤実氏著新版不動産鑑定―評価実務と担保の法律―(二四頁、二五頁参照)によると「抵当不動産の時価が債務額よりも高い場合は問題はない。抵当権者、債務者(所有者)、第三取得者の三当事者の協議により売買代金のうち債務額だけを抵当権者に支払い、残額を債務者に交付し、抵当権の登記を抹消して第三取得者に移転登記をすればよい訳で、実際には極めて多く行なわれている。また、債権の弁済期未到来などの場合で抵当権をそのままにして売買する場合には時価から抵当債務額を控除した残額を債務者に支払い、抵当債務を第三取得者が引受ければよい。」というているに徴し、原告の主張が決して不当でないことが明白である。五、従つて原告は被告のなした裁決には何等根拠がないと信ずるが故に行政件訴訴法第八条の規定により右裁決の取消を求める。と述べたものと看做す。

被告は主文と同旨の判決を決め、答弁として、請求の原因たる事実中一、三の各点を認め、その余の各点を争い、ただ右三の点のうち後段の「法人税法及び所得税法ならびに法人税基本通達を披見してみても被告の裁決の理由を支持する根拠は見当らない。」とあることについては争う。なお原告は被告のなした裁決の取消を求めているが、行政事件訴訟法第十条第二項によれば、処分の取消の訴とその処分についての審査請求を棄却した裁決の取消の訴とを提起することができる場合には裁決の取消の訴においては処分の違法を理由として取消を求めることができない。とある。ところが本件について原告は被告のなした昭和四十年一月十二日付原処分の一部取消の裁決について取消を求めているが、原告が審査請求の棄却された部分の裁決をなお争うとすれば、裁決によつて一部取消のあつた原処分(残存部分)の取消の訴によるべきであり、原告の被告に対する本訴は不適法として棄却さるべきである。

案ずると請求の原因たる事実一、三の各点(但し三のうち前記争のある部分を除く。)は当事者間に争がなく、同二の点についてはこれを認むべき証拠はなく、ただ右一、三の各事実より原告が右各不動産につき低廉譲渡の申告をなしたことが窺知せられる。面して右の認定事実と請求の趣旨とを合せ考えると被告の行政事件訴訟法第十条第二項に関する理由があり、原告の所説につき実質審理に入るまでもなく(因みに原告の所説は恐らく理由のあるものとは思われない。)原告の被告に対する本訴請求は不適法であることが明らかであるのでこれを棄却し、民事訴訟法第八十九条により主文のように判決する。

(判事 小沢三朗)

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